
フォーミュラEにおいて、リザーブドライバーの重要性は極めて高い。シミュレーター作業やレース週末にチームへ帯同し、エンジニアやレギュラードライバーを多角的な視点で支えながらカテゴリーへの理解を深める若手ドライバーも多くいる。
これは将来のフォーミュラE参戦へ向けた貴重な学びの場であると同時に、カーボンニュートラルを掲げ世界を転戦するABB FIA フォーミュラE世界選手権のクルーのひとりとして、気候変動に対する意識も問われる。
2025年、エンビジョン・レーシングに加入したイングランド出身の21歳、ザック・オサリバンもリザーブドライバーのひとり。同年ジェッダE-Prixのルーキープラクティスをきっかけに起用された彼は、自身の役割をこう分析する。
「レギュラーのジョエル(・エリクソン)やセブ(セバスチャン・ブエミ)は、極めて経験豊富ですが、全体を客観的に見渡せる『視野の広い立場』に僕ががいることで、アドバイスをできることも多いです。チームをできる限りサポートすることが僕の一番の仕事です。」
「エンジニアに対しても同様に、ドライバーたちが抱えている課題に対して、ドライバー目線からのフィードバックを提供できます。それ以外の時間は…紅茶をたくさん飲み、ガレージにやってくるゲストとおしゃべりしていますよ(笑)」
エンビジョンはどのようなチームか、と問うと「アットホームなチーム」だと表現する。
「フォーミュラEのチームで、緑色のマシンに乗っています。というのは冗談として(笑)、非常に競争力が高く、素晴らしい結果を残したいという強い情熱を持ったチームです」
「最大の特徴は、アットホームな雰囲気を持っていることです。(中国の)エンビジョングループという大きなオーナーがいて、資金面も非常に潤沢ですが、チームの運用方法はまさに家族のようです。クルー全員の結びつきが強く、コース上で勝利を目指しながらみんなで良い時間を共有しています」
エンビジョン・レーシングは「Race Against Climate Change(地球温暖化に挑むレース)」を掲げ、各開催地で再生可能エネルギーの普及を推進するなど、モータースポーツでは初となるカーボン・ニュートラル認証を取得した先駆者的チームでもある。

自身もプログラムに参加するオサリバンだが、気候変動に対しては、ドライバーという立場が抱える”矛盾”を隠さない冷静な分析を見せる。
「ドライバーという立場で気候変動について意見を述べるのは、非常に繊細で難しいことです。僕ら自身がCO2排出の加害者であり、(地球温暖化の)貢献者でもあるからです。年に60回以上も飛行機に乗り、毎週のようにレースをしているわけですから、環境に良いわけがありません。『みんな環境を大切にしよう!』と主張しても、『偽善者だ』と言われてしまう可能性があります」
だからこそ、「行動に移す」ことに意味があるとオサリバンは強調する。
「しかし同時に、自分のいる世界で気候変動の防止や啓発活動に寄与できる機会があるならば、行動に移すことは極めて重要です。フォーミュラEはクリーンな世界選手権であり、エンビジョンはその中でも最もクリーンなチームですから、人々の意識を高めるための『プラットフォーム』を持っています」
フォーミュラEの世界に飛び込んでから気候変動に関する意識変化があったかと問うと、「もともと高い意識を持っていた」と明かしたオサリバン。フォーミュラEへの加入を通じ「提唱者になれる」ことが重要だと語った。
「劇的な意識の変化があったというよりは、避けては通れない課題として捉えていました。完全な電動自動車の選手権であり、ネットゼロを目指しているフォーミュラEだからこそ、環境問題を訴えるための基盤が得られます。その舞台において、僕たちも変化を後押しする提唱者のひとりになることができるのです」
「僕たちが完璧で最高だなんて言うつもりは毛頭ありません。今でも、レースチームは世界中に資材を輸配送しているわけですから。それでも、フォーミュラEは気候変動に対する意識を啓発するためのプラットフォームを提供してくれていますし、できる限り多くの人々に知ってもらうことが何より大切だと考えています」
持続可能性を追求するフォーミュラEの姿について、レーシングドライバーの視点から語ってもらったところ、「ドライバーとして最高の車!」という返答が返ってきた。
「正直、レーシングドライバーとしては最高です!ミーティングのときに全員の声が完璧に聞こえますし、無線もはっきりと聞こえますから(笑)。」
「内燃車のエンジン音がサーキットに素晴らしい雰囲気をもたらすというのは事実です。しかし時代は変わってきています。確かに音の迫力は少し欠けるかもしれませんが、慣れてしまえば気にならなくなります」
さらに、フォーミュラEの特徴が新たなレース文化を生み出していると指摘した。
「東京のような市街地コースだと、コンパクトなコースレイアウトのおかげで車が縁石やウォールにヒットする音がよく聞こえて、臨場感があって素晴らしい雰囲気です。開けたサーキットのマドリードなどでは、車の音が何も聞こえないんですよね。でもそれもフォーミュラEの一部であり、EVレースの特性であって、これから定着していく文化だと思います」
気候変動という課題に対し、ドライバーのもつ矛盾を隠さずに正面から向きあう。若いドライバーが、将来のフォーミュラE参戦という目標とともに新しいプラットフォームを形作ろうとしている。
(文/写真一部・インタビュー=矢野 巧)








コメント(0)
コメントを残す