
電気自動車は走行中に排気ガスを出さない。フォーミュラEは、排気ガスを排出しないマシンによるレースを通じて、持続可能なモビリティの未来を発信している。
ここで疑問が一つ浮かぶ。電動マシンを動かすその電気は、どこでどのようにつくられたものなのか。
フォーミュラEのマシンが二酸化炭素(CO₂)を排出しなくても、充電に使う電気が石炭や天然ガスなどの化石燃料からつくられていれば、発電段階では温室効果ガスが発生する。電気で走ることと、必ずしも排出がゼロになることは同じではない。フォーミュラEのサステナビリティ部門副代表を務めるジュリア・パレ氏にサステナブルへの取り組みの実情を尋ねた。
国によって異なる電気のつくられ方
同じ1kWhの電気を使っても、その電気を生み出すために排出されるCO₂量は、国や地域によって異なる。再生可能エネルギーの割合が高い地域もあれば、石炭や天然ガスなどの火力発電への依存度が高い地域もあるためだ。
各国の公的機関や送電網運用機関が公表するデータを見ると、電源構成には大きな違いがある。経済産業省によると、日本では2024年度の発電量のうち再生可能エネルギーが23.1%を占める。英国政府によると、英国は2025年に52.5%、西・送電系運用会社Red Eléctricaのデータでは、スペインは55.5%に達している。一方、サウジアラビア政府統計機関の公表値によると、同国では再生可能エネルギーの導入が急速に進められているものの、2024年末時点の再生可能エネルギー設備容量は約6.6GWで、総発電設備容量に対して約7%にとどまる。
また、日本とフランスでは再生可能エネルギーの割合自体は比較的近いものの、原子力を含めた低炭素電源の割合には大きな差がある。仏・送電系運用会社RTEによると、2025年の低炭素電源の割合は95.2%で、内訳は原子力68.1%、水力11.4%、風力9.1%、太陽光6.0%などである。一方、日本では2024年度、再生可能エネルギーが23.1%、原子力が9.4%で、両者を合わせると32.5%となり、残る67.5%は火力発電が占めている。
パレ氏に「国によって発電源が異なるなかで、電気利用による間接的なGHG排出をどう考えているのか」と尋ねたところ、フォーミュラEではイベントごとにどのエネルギー源をどれだけ使ったかを把握しているという。電力網から供給される電気、HVOを使った発電、再生可能エネルギーで充電したバッテリー・エネルギー貯蔵システムなどを組み合わせてイベントを運営している。そして、電力網を使用した場合には、それぞれの国や地域特性に合わせた重み付けとして「排出係数」を用いて二酸化炭素排出量を算定する。パレ副代表は、日本、ロンドン、フランスでは、それぞれ異なる電力網のCO₂換算排出量が存在すると説明した。
つまりフォーミュラEは、電気の使用を一律にCO₂排出ゼロとみなしているわけではない。その土地の電力事情を踏まえ、電気の使用によって間接的に生じるCO₂排出量まで計算しているということだ。
電気の発電元までわかるのか
電力網には、火力、太陽光、水力、風力など、さまざまな発電所でつくられた電気が同時に流れ込む。そのため、東京の会場でコンセントから使った電気について、それぞれの電気の発電元や発電方式を物理的に判別することは困難である。

そこでフォーミュラEが行っているのは、こうした個々の電気の発電元を追跡することではなく、イベントでどのようなエネルギーを使用したかを把握し、その地域の電力事情を反映した排出係数を使って、発電段階で生じる温室効果ガス排出量を算定することだ。
こうして算定された排出量は、大会全体のカーボンフットプリントに組み込まれる。カーボンフットプリントとは、ある活動や製品、イベントなどによって直接・間接的に発生する温室効果ガスの量を、CO₂換算で数値化したものである。フォーミュラEの場合、レースマシンや会場で使用する電力だけでなく、チームや機材の輸送、スタッフや観客の移動など、イベントの開催に伴う幅広い排出が対象となる。温室効果ガス排出量の算定や報告には、国際的に複数の基準や枠組みが存在し、その中でも、GHG Protocol(温室効果ガスプロトコル)は企業や組織による排出量算定で広く利用されている。
パレ氏によると、フォーミュラEでは各開催地の電力事情を反映してCO₂排出量を算定し、GHG Protocolに沿って大会全体のカーボンフットプリントに反映しているという。つまり、会場に届いた電気の発電元を特定しているのではなく、その地域の電力網を利用することで、どの程度の温室効果ガス排出につながるのかを算定しているということだ。パレ副代表は、この排出量について「非常に明確に算定できる」と説明。また、算定されたカーボンフットプリントは独立した第三者による検証も受けているという。
100%再生可能エネルギー運営の実情
パレ氏は、各イベントを再生可能エネルギーで運営していると説明している。ただし、これは必ずしも会場へ物理的に届くすべての電気が、太陽光や風力だけでつくられているというわけではなく、会場の条件に応じて複数の方法を使い分けているという。一つ目の方法は、系統電力と再生可能エネルギー証書の組み合わせによる、電力網の利用である。例えば、イベントで100kWhの系統電力を使った場合、それと同量に相当する再生可能エネルギーの環境価値を調達する、という考え方だ。電力そのものは送電網の中で混ざってしまう一方で、自分たちの使った電力量と同じだけの再生可能エネルギーが発電されたことを証書などを通じて確保する。
すなわち、再生可能エネルギーを調達したことと、会場に届いた電気そのものが100%再生可能エネルギー由来だったことは、同じ意味ではない。これは、再生可能エネルギーの利用を増やしていくために企業で広く使われている考え方の一つであり、選手権運営においても重要な取り組みの一つである。
また、フォーミュラEのレース会場は常設サーキットに限らない。市街地などに一時的にレース会場をつくる場合、すべての設備を既存の電力網につなげられるとは限らない。そこで登場するのが、HVOだ。これもイベントを再生可能エネルギーで運営するための一つの施策である。
HVOは「Hydrotreated Vegetable Oil」の略で、廃食油や動物性脂肪などを原料にした燃料である。既存のディーゼル発電機を大きく改造せずに使える「ドロップイン燃料」であることが特徴だ。また、パレ氏は、従来のディーゼル燃料と比較すると、CO₂排出量を最大80%削減できると説明した。
パレ氏によると、フォーミュラEでは電力網が利用できない場合にHVOを使うほか、再生可能エネルギーで充電した大型蓄電池を使うこともあるという。2026年東京E-Prixでは、このHVOがイベントの大部分の電力供給に使われたと説明した。
電気で走るだけでは終わらない

フォーミュラEにおいて、レースを開催するには、マシンの充電だけでなく、ピット、照明、放送設備、ホスピタリティなど、多くの場所でエネルギーが必要になる。さらに、その電気をどうつくったのかまで考えなければ、本当の環境負荷は見えてこない。電動マシンを走らせるだけでなく、その周辺で使われるエネルギーについても計算し、削減に対し積極的に取り組んでいる。
一方で、100%再生可能エネルギー運営という言葉だけでは見えにくい部分もある。電力網から実際に届く電気の発電源と、証書を使った再生可能エネルギーの調達は区別して考える必要がある。フォーミュラEのカレンダーには、日本とはエネルギー事情が大きく異なる国や地域も含まれる。たとえばサウジアラビア・ジェッダでは、ナイトレースのダブルヘッダーが行われる。開催地の電気網が化石燃料に大きく依存している場合に、フォーミュラEがどこまで実際のエネルギー転換につながるのかという問いも残る。
電気で走れば、それだけで環境に良いのか。フォーミュラEの取り組みを見ていくと、その答えは単純にYESとは言えない。だからこそ重要なのは、再生可能エネルギーを使っているとひとえに示すことだけではなく、エネルギーの種類、調達方法、関連した温室ガス排出量の計測とその方法、そして、削減施策と計画を継続的かつ明示的に示していくことだ。
フォーミュラEが問われているのも、まさにその部分である。
(文・インタビュー=堀越あす香)





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