
2026年、東京e-Prixはナイトレースという新たな形で開催された。夜の東京をフォーミュラEのマシンが駆け抜ける光景は、イベントとしての魅力を大きく高める。一方で、夜間開催には照明をはじめとする追加の電力需要が伴ううえ、東京大会が開催される7月は高温多湿となる。
ナイトレースの実施により増える電力消費と環境負荷に対する見解を、フォーミュラEのサステナビリティ副代表を務めるジュリア・パレ氏に聞いた。
「電力需要が増えると想定している」 Scope 1・2増加の可能性も

パレ氏は、2026年の東京大会はナイトレースとなることに加え、高温多湿な条件での開催になることから、イベント全体の電力需要が昼間開催であった昨年と比較し増加すると予想していることを認めた。ナイトレース化によってエネルギー消費が増える可能性を把握しているということだ。
これに対し、環境負荷の増加を抑えるために二つの方法を取っていると説明。イベントを100%再生可能エネルギーで運営することと、会場の電力システムそのものを毎年より効率的に設計しているという点を上げた。
フォーミュラEでは、イベントの電力システムを年々改善し、同じ機能をより少ないエネルギーで実現できるよう効率化を進めているという。フォーミュラEは2018/19シーズン以降、Scope 1とScope 2の排出量を55%削減してきたという。これは、イベント側が直接燃料を使用することなどによって発生する排出をScope 1、購入した電力を発電する際に発生する間接的な排出をScope 2として事業者が定義する排出量の基準である。
パレ氏は、Scope 1・2が前年より増える可能性があるとの認識を示したが、長期的な削減目標については「軌道上にとどまれると確信している」と結論づけた。
「削減」だけがサステナビリティではない
パレ氏は、サステナビリティとは「環境への影響、社会的な影響、経済的な繁栄のバランス」だと説明している。スポーツイベントには、環境負荷の軽減と同時に、観客体験、安全性、運営効率、商業面などの要素が複合しているため、ある判断によって一つの側面では負荷が増えたとしても、事業全体で別の部分を改善しながらバランスを取っていく、という考え方だ。これはフォーミュラEがサステナビリティを単純に「前年より必ず電力消費や排出量を減らすこと」として捉えているわけではないということを意味する。
具体的な取り組みとして、フォーミュラEは地域ごとにレースをまとめる「リージョナライズ」を進めている。機材の移動距離を短縮し、輸送に伴う排出量と物流コストの削減を図る狙いだ。
また、ドイツ物流大手DHLとの協力関係にも言及した。輸送量の削減は、DHLにとって短期的な収益機会の減少につながる可能性がある。それでも、両社はネットゼロという共通の目標を掲げており、その実現に向けた取り組みが長期的なパートナーシップを支えていると説明した。
パレ氏は、「フォーミュラEが示すサステナビリティとは、環境、経済、事業関係それぞれの利益や負担を見ながら全体として最適なバランスを探していくものである」とした上で、東京e-Prixの夜間開催においても、追加の電力需要が生まれる一方で、再生可能エネルギーの利用や電力システムの効率化によって、その影響を抑えようとしていることを説明した。
ナイトレース開催を通じ、スポーツとしての魅力や開催条件と環境負荷の間にトレードオフがあることを前提に、その中でどう負荷を減らしていくかが、フォーミュラEのいうサステナビリティなのだ。
なぜナイトレース サステナビリティと「魅せるレース」は両立できるのか

フォーミュラEでは、単に電力消費量だけを見るのではなくその電気をどのように供給するかも重視しているとパレ氏は述べた。東京E-Prixでは、廃棄物由来の燃料であるHVOを使った発電や、再生可能エネルギーで充電したバッテリー・エネルギー貯蔵システム、系統電力などを組み合わせている。
イベント運営の電力のうち大部分を賄ったHVOは、既存のディーゼル発電機に使用できる「Drop-in-fuel」運用が可能な燃料で、従来のディーゼルと比較してCO₂排出量を最大90%削減できるとしている。開催に際し電力消費は増えるものの、その電力の発電方法によって排出量を抑えようと取り組んでいる。
さらに、パレ氏は東京開催の最大の特徴は、再生可能エネルギーを利用する環境が充実しているところだと述べた。東京E-Prixでは、マシンの充電を含むイベントのほぼ全体をHVOで賄っていることを強調しつつ、東京都の強力な支援のもと、先進的な技術の生産のみならず、人々に向けた認知の面においても重要な役割をすると説明した。
フォーミュラEは、モータースポーツとして観客を楽しませ、都市の中で電動化の魅力を見せる役割も持つ。環境負荷を減らすためだけに存在するイベントではない。
電力需要が増える可能性がありながら、夜の都市でレースを行い、増えた需要をより低炭素なエネルギーと電力システムの効率化によって緩和しようとする。短期的な排出量増加の可能性を受け入れながら、長期的な削減目標を重視する。サステナビリティとは、すべての環境負荷をゼロにすることではなく、複数の価値の中でどのように負荷を減らしていくかを考えることでもある。
東京E-Prixのナイトレースは、フォーミュラEがその難しいバランスをどのように取ろうとしているのかを見る、一つのケースになっている。
(文・インタビュー=堀越あす香)







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