
13年目を迎えるフォーミュラEで、若手ドライバーの台頭が目立っている。2026/27シーズンからシリーズ史上最速となるGen4マシンが導入されるのを前に、20代前半のドライバーが多く登場することとなった。
これまで電動マシン特有のエネルギーマネジメントなど、複雑な技術要素への理解を持つ経験豊富なドライバーが重視されてきたフォーミュラEで、世代交代が進みつつある。
すでにレギュラー参戦している22歳のテイラー・バーナード、ゼイン・マロニー、21歳のペペ・マルティに加え、2026/27シーズンには23歳のテオ・プルシェールの参戦が決定。さらに21歳のザック・オサリバンもエンビジョン・レーシングからのデビューが確実視されている。実現すれば、グリッドのおよそ4分の1を20代前半のドライバーが占めることになる。
エンビジョン・レーシングのシミュレータードライバーとして2年間の経験を持つオサリバンは、この世代交代の背景にGen4の特性があるとみている。「全員がルーキー」となるような、ドライバー間の経験差が縮まる可能性があるためだ。

2026年11月から導入されるGen4は、最大600kWの出力を生み出す常時4輪駆動(AWD)となる。シミュレーターと実車の双方でGen4を経験したオサリバンは、現行マシンとの大きな違いとして「無制限とも言えるトラクション」を挙げ、「アクセルを踏み込んだときのパワーオーバーが大幅に減り、コーナー立ち上がりでより鋭く加速できるようになります」と、ドライバーによるコントロールの余地が増えていると明かした。
これらのトラクションの向上は常時4輪駆動の恩恵である一方で、多くのドライバーはシミュレーター上で「フロントタイヤだけがまっすぐ抜けていく妙な感覚がある」と口にしている。
この挙動に関し、オサリバンはシミュレーター上での再現性の難しさが要因であると分析する。
「タイヤモデルの挙動やフロントタイヤにかかる負荷の計算が極めて高度なため、4輪駆動の挙動をシミュレーターで再現するのは非常に複雑で難しくなっています。常時AWDとなるGen4において、シミュレーター上で重点的に取り組んでいる課題の一つで、現在も改良を進めています」
最大600kWという出力と4輪駆動を組み合わせたGen4は、すべてのドライバーにとって挑戦となる。オサリバンは、こうした環境が若手にとって参入障壁を下げると考える。
「誰もそのマシンを知らないため、ルーキーが活躍できる大きなチャンスになります」
同時に、フォーミュラEでは従来からエネルギーマネジメントをはじめとする独自の技術への対応力が求められており、経験豊富なドライバーの価値が失われるわけではないと語り、チームがベテランを求める理由は明確だと指摘する。
「チームの視点から見れば、マシンの開発を進めるために経験豊富なドライバーを2人揃えたいと考えるでしょう。非常に特殊な選手権ですから、経験豊富なドライバーが多くのポイントを獲得することがよくあります。純粋な速さでは最速でなくても、チャンピオンシップではベテランが若手より多くのポイントを稼ぐことが多いと思います。だからチーム側は経験を求めるわけです」
一方で、2年間にわたりシミュレータードライバーとして所属していたエンビジョンは、2025/26シーズンを終え、従来のラインナップを刷新するという決断を下した。シルヴァン・フィリッピ代表が「苦渋の決断」と明かしたこの背景を「レベルが非常に高い、マシンの隅々まで熟知した経験豊富なドライバーたちが揃っているため、毎年同じジレンマが生じているわけです」と分析した。
「ですが、確実に新しい才能も流れ込んできています。Gen4マシンはF2やスーパーフォーミュラのようなラップタイムになりますし、若手ドライバーにとって馴染みやすいマシンになるはずです」
現在、若手ドライバーにとってフォーミュラEへの登竜門となっているのが、シーズン中に実施されるルーキーテストだ。各チームが現行マシンをレースと同等のパフォーマンスで走らせる機会を設けており、今年3月のテストにも20人のドライバーが参加。オサリバンや、オペル・GSE・フォーミュラEチームでの参戦が決まったプルシェールもステアリングを握った。

オサリバンをはじめ、参戦チームやマニュファクチャラーに関係をもつ若手にとって、ルーキーテストは単なる走行機会ではない。さらに、フォーミュラEの高い専門性は若手ドライバーにとって「大きなステップアップ」であるという。
「リザーブドライバーとして、あるいはレギュラーシートの候補としてチームに参加しているなら、自分の才能をアピールし、どのような仕事ぶりをするのかをチームに見せられます。また、チームの作業スタイルを知る絶好の機会でもあります」
「経験を積むために参加するドライバーにとっても、プロモーションになるうえ、適応力を磨ける素晴らしい経験です。若手ドライバーの視点では、エンジニアリングの要求水準やプロフェッショナリズムという面でも、大きなステップアップになります」
オサリバンは、テストで従来のGen3 Evoをドライブした際にも、その加速性能に驚いたという。そこからさらに1.7倍までパワーを増すGen4に高い期待を寄せる。
「Gen3 Evoのストレートでの体感速度はそれほど圧倒的というわけではありませんが、トルクは凄まじいです。4輪駆動はこれまで乗ってきたどんなレースカーとも違うので、少し不思議な感覚でしたが、全体として非常に速いマシンでした。来季は常時4輪駆動になり、アタックモードでは600kWになりますから、強烈な速さになるはずです」
オサリバンがGen4時代のシートを狙ううえで、これまでのシミュレータードライバーとしての経験も大きな意味を持つ。レース週末の準備を担うシミュレーター業務は、F1世界選手権とフォーミュラEでは目的が異なるという。
2024年まで所属していたウィリアムズF1では、新パーツの検証や実車データとの整合性の確認などが主な役割だった一方、フォーミュラEでは、マシンの性能を引き出すための「最適化」が中心になる。
「フォーミュラEは共通シャシーを使用していますが、パワートレインやシステムは異なります。コーナーごとに調整・設定できるパラメーターやコンフィギュレーションが無限のように存在します。ですから、シミュレーターは主に最適化のために使用しています」
フォーミュラEでシミュレーターの重要性が高いもう一つの理由が、独特の開催コースにある。カレンダーの多くは市街地や専用に設置された特設コースで構成され、事前に実走経験を積むことが難しい。
「モナコやマイアミなどを除けば、ほとんどのコースがユニークな特設コースで、事前にシミュレーターでコースを完璧に覚えなければなりません。F1の場合は「500回走ったバルセロナにはシミュレーター準備は不要だ」ともなります。しかし東京E-Prixに向かう場合、東京での走行経験は多くても3回程度ですし、毎年レイアウトも微妙に変わります。だからこそ、シミュレーターはフォーミュラEにおいて最も重要な要素の一つなのです」
そのシミュレーター作業を通じて、オサリバンはジャガーとも綿密な連携をとってきた。エンビジョン・レーシングはジャガーからパワートレインの供給を受けており、Gen4時代も供給契約を継続する。
両チームはレース週末だけでなくシミュレーター作業でも密接に連携しており、ワークスとカスタマーという関係よりも、「サテライトチーム」という表現が適切であると語った。
「エンビジョンとジャガーの関係は非常に密接です。ミーティングは常に合同ですし、データも常時共有しています。コース上にいる4台のジャガーのマシンはまるで「ジャガー・エンビジョン・レーシング」として一緒に戦っているように見えます。実際には「サテライトチーム」として機能しているといえるでしょう。お互いに何をしているかを共有する非常にオープンな関係です」
このようなマニュファクチャラーとの緊密な連携を通じて、オサリバンはGen4マシンへの理解を深めている。
未知の技術を前に、これまで蓄積されてきた経験と、若手が持つ適応力をどう組み合わせるか。Gen4時代を迎えるフォーミュラEにとって、若手ドライバーの台頭はその変化を象徴する動きの一つとなっている。オサリバンは、その変化の渦中にいる若手の一人だ。
(文/写真一部・インタビュー=矢野 巧)








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