
FIAとフォーミュラEは1月23日、レース中にピット義務を設け急速充電を行うというコンセプト、「ピットブースト」の概要を発表。これは2月14日から15日にかけてダブルヘッダーで行われる「ジェッダE-Prix(サウジアラビア)」の週末から導入される予定だ。

レース中に急速充電を行うというコンセプトは、Gen3の開発が始まった2019年から構想されていた。当時は急速充電を行うことでアタックモードが”解禁”されるという運用方針であり、名前も「アタックチャージ」と呼ばれていた。
しかしながら、2022年後半のGen3導入初期に発生したバッテリーに関する不具合などで延期。2年以上が経過した2025年の第3戦ジェッタE-Prixから晴れて導入されることになった。
シーズン11ではアタックモードがシーズン10以前に比べ非常に有効になっている点、また戦略の幅を持たせる為にアタックモードが”解禁”されるという運用方針は撤廃。アタックモードと併用出来る他、名称も「ピットブースト」へと変更された。
ピットブースト導入により、戦略はより複雑へ
この「ピットブースト」では、事前に告知されるバッテリー残量をもとにした”ピットウィンドウ”(プレシーズンテストの模擬レースでは残り残量60%〜40%)内にて34秒のピットストップが義務付けられる。

このピットにて、600kWという他に類を見ない高出力(テスラのスーパーチャージャーが250kW)で30秒間マシンを充電。これによりレース中のエネルギー量における10%に相当する、3.85kWhが充電される。
このピットウィンドウやレース周回数を含む情報は、レースの21日前の段階でチームへ告知される。
ピットウィンドウ内での充電が義務付けられているが、キャパシティの関係で1つのチームが2台同時にピットインさせることは禁じられている。
そして先述の通り、アタックモードはピットブーストとは関係なく使用できる予定だ。
チームはどちらのマシンを優先してピットへ入れるか、エネルギーが増えることによるメリットとポジションを失うリスク、SCのタイミング、また他車との位置関係など様々な事を考慮してピットタイミングを考えなければならない。
またピットブースト導入により周回遅れが発生する事も濃厚であり、ブルーフラッグの規則も更に明確化されると見られている。
この「ピットブースト」はダブルヘッダーのイベントでのみ導入予定であり、ジェッダE-Prix以降はモナコ、東京、上海、ベルリン、ロンドンで実施が予定されている。

アルベルト・ロンゴ(フォーミュラE共同創設者兼最高選手権責任者」のコメント
「広範囲にわたるテストとシミュレーションを経て、ついにこの画期的な技術を発表できることを嬉しく思います。これは、私たちのシリーズだけでなく、現代のモータースポーツにとって最も野心的で影響力のある追加要素の1つとなります。」
「ピットブースト は、チームとドライバーの両方に、強いプレッシャーの中重大な決断を迫ることになります。劇的な追い越し、予想外の展開、そして人間の創意工夫の可能性は、ファンの興奮を高め、フォーミュラ E と FIA のイノベーションへの絶え間ない取り組みを示すものとなるでしょう。サーキットから公道への技術移転を強化するために生まれたシリーズとして、これはロードカーや、潜在的なEVパフォーマンスにとって大きな変化となります。」
「シーズン11で我々が考えたのは、基本的にこの新しいシステムを翌日に全く違うレースができる場所で導入しようということであり、それが基本的にフォーミュラEの目的であり目標でした。」
「基本的に 24 時間後にはまったく異なるレースが見られるような場所にこれを実装し、ピットブーストによって生じる違いを確認したいとも考えています。」
「シーズン11全てのレースでは実装したくはなかったので、私たちにとっては非常に良い解決策だったと思います。もちろんそれがうまくいけば、来シーズンも同じく導入するでしょう。」
「まだ確定はしていませんが、このシステムがどれほど優れていて、どれほどエキサイティングなのか、そしてシミュレーション通りに機能するかどうかを必ず調べるつもりです。」

マレク・ナワレツキ(FIAシニアスポーツダイレクター)のコメント
「包括的なテストを経て、ピットブーストの導入によって再びeモビリティの限界を押し広げることができてうれしく思います。」
「FIAの技術およびスポーツ規則の一部であるこの先駆的な新機能は、スポーツに新たな戦略的要素を追加するものです。そしてさらに高度なレースから公道への技術を開発するというFIAの確固たる取り組みを強調するものであり、フォーミュラE世界選手権によって完璧に示されるアプローチとなります。」
関係者の中でも賛否両論
このピットブーストであるが、関係者の中では懐疑的な意見も上がっている。導入予定から2年以上延期となった事でパドックの関心がそもそも下がっていたほか、30秒マシンが止まっているだけの状況をどう”中継映像”でエキサイティングに見せるのか、たった45分間のレースでルールが複雑化する事への懸念などだ。
日産フォーミュラEチームのチーム代表であるトマソ・ヴォルペ氏はこう語る。
「私たちの意見は、複雑なものになりかねないから、できるだけシンプルにする必要があるというものでした。確かに一方では “中断して再充電する必要がある “と言われても、パワーアップやその他の点などが、一般の人々の理解をややこしくしています。」
「私が一番心配しているのは、一般の人たちにどれだけ説明するかということではなく、サーキットで混乱が起きないかということです。」
「純粋なエンターテインメントという点で、これがどうなるのか、私たち全員が望んでいるエンターテインメントを引き起こすのか、それともファンを少し混乱させるのか、どうなるのか見てみましょう。」
ドライバーの中でも意見は分かれており、ランダム性が増す事で不公平になる事を恐れるドライバーもいれば、前向きに捉えるドライバーもいる。ろ
ポルシェのパスカル・ヴェアラインはこう語る。
「私はそれに非常に前向きですが、まず第一に、システムとすべてが完璧で、誰にとっても機能する必要があります。」
「不公平な状況は生まれないはずですし、先頭集団がピットインして、その直後にセーフティカーが出動するなど、レース結果に悪影響が出ないことを願うばかりです。」
「これではトラック全体が完全に混乱し、1位で走っていても、間違ったグループに入っていたらポイントすら逃してしまう可能性があります。それが私の側からの唯一の懸念事項ですが、それ以外は楽しみにしています。」
「メーカーとしての別の視点から見ると、私たちはそこから多くを学べると思うので、チームとしてもグループとしても、間違いなく大きな意味があると思います。」
「いつも少し未知の世界に入っていくと、他の人よりも少し上手くやれるようになる、何かを他の人よりも少しよく理解できるようになる扉が開かれます。だから、私はそれについてはもっと前向きに考えています。」
ピットブーストの概要

・全部のマシンを対象に、レース中に34秒(充電は30秒)のピット義務。
・出力600kWで10%に相当する3.85kWhを充電
・アタックモードは併用して使用可能。
・クルーは3人まで許可。充電担当に2人、マシンのリリース担当で1人。
・チームにそれぞれ1台のブースターが供給。
・チーム内での同時ピットインは禁止。同一周回で1台まで。
・残り残量を元に”ピットウィンドウ”が設定され、周回数などを含んだ情報は21日前にチームへ告知。
・タイヤ交換は”充電後”にのみ許可される。
・トラブルが起きた時の予防措置として、ピットエンドに予備機を2台設置。
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