
6月25日、エンビジョンレーシングは、7月14日にベルリンで開催されるフォーミュラEルーキーテストに、今シーズン途中からテストドライバーを務めるザック・オサリバンを起用すると発表した。
このテストでは二人のドライバーの起用が義務づけられており、翌日にはジョナサン・ホガードの参加も発表している。
イギリスを拠点とするチームのマシンは、二人のイギリス人ドライバーに任されることになる。
オサリバンがエンビジョンのマシンをドライブをするのはジェッダE-Prixで開催されたルーキーテスト、”Rookie Free Practice”に続いて2回目。
ジェッダ・コーニッシュ・サーキットでの初ドライブは40分間のセッション。終了間際のフライングラップで、ウィリアムズ・レーシング・アカデミーで同期のジェイミー・チャドウィックとの接触があったものの、11台中6位でチェッカーを受けた。
これまで14人のスーパーフォーミュラドライバーがフォーミュラEに参戦。イングランド出身のオサリバンは、これに次ぐ15人目になり得るだろうか。
直近3年間で、SF23をはじめFE、F1、F2、F3、GB3、GB4、GT300と数多くのマシンを操った経験をもつザック・オサリバン。弱冠20歳でありながら、どのような道のりでここまでたどり着いたのか。この記事では彼の波乱万丈のキャリアを振り返る。
オサリバンは8歳でカートデビューすると瞬く間に表彰台の頂点へ。
「レインマン」と呼ばれ、イギリスで二つのタイトルを獲得するとヨーロッパ・ワールドカートへ参戦。
2018年にDKM選手権で2位に入ると、翌2019年には弱冠14歳でジネッタ・ジュニアから四輪デビューを果たす。デビューレースで表彰台に上り、シーズン3勝を記録してカーレースデビューを総合2位で終える。
2020年には英国F4からシングルシーターデビューを果たす。名門カーリンから参戦し、なんと初戦でデビューウィンを達成。現在FIA-F2参戦中のルーク・ブラウニングとチャンピオン争いを繰り広げ、最終的にはランキング2位でシーズンを終えた。
2021年は英国F3(現GB3)に引き続きカーリンから参戦すると、優勝7回、表彰台7回、最多ポール、最多ファステストラップ、最多リードラップという圧倒的な強さで2位に164ポイントの差をつけチャンピオンに輝いた。
この活躍から、フィーダーシリーズでその年に最も秀でた成績を残した英国人ドライバーに与えられる、アストンマーティン・オートスポート・BRDC・ヤングドライバー・オブ・ザ・イヤーを受賞。
ご褒美として、F1初開催の地であるシルバーストーン・サーキットでアストンマーティンの現行型F1マシンをドライブする機会を得た。
2022年にはカーリンとともにFIA-F3へステップアップ。
名門ウイリアムズ・レーシングからアカデミー・ドライバーに選出され、ウイリアムズカラーのマシンで母国シルバーストーンを含む2度の表彰台を獲得する。カーリン史上最高位となるランキング11位でシーズンを終えた。
FIA-F3への参戦を継続した2023年は、優勝経験のあるプレマ・レーシングに移籍。4勝と1度のポールを記録してランキング2位でシーズンを終えた。
そしてF1 2023年シーズンの最終戦、アブダビグランプリのFP1でウイリアムズ・レーシングからF1デビューを果たす。
アレックス・アルボンに変わってドライブしたFW45ではセッション最多となる28周を走行。
トラフィックやタイヤのロックにもかかわらず、最後のフライングラップでレギュラードライバーのローガン・サージェントからわずか0.6秒遅れというタイムを記録した。
その後のルーキーテストでもフランコ・コラピントとともにFW45をドライブし、飛躍の年となった2023年シーズンを締めくくった。
翌2024年はもちろんFIA-F2にステップアップ。ARTグランプリから参戦し、モナコとベルギー・スパでの二度の勝利を収めたにも関わらず、資金難でアゼルバイジャン・バクーラウンドを前にシートを失った。
その後はシートを見つけられずにいたものの、12月にはスーパーフォーミュラのルーキーテストにKondo Racingから急遽参戦。同期でもありF1ドライバーのオリバー・ベアマンが電撃参加して話題になったテストである。
F1に近い感触だという感想を残したSF23での初走行を7位で終え、極東日本でも抜群の存在感を残した。それから約2ヶ月、Kondo Racingから2025年のスーパーフォーミュラ参戦が決定した。
2025年2月には、ジェッダでの”Rookie Free Practice” にさきがけ、エンビジョン・レーシングへの加入を発表。
メーカーやスポンサーのバックアップがない中の抜擢となった。
そのフォーミュラEデビューの際には「エンジン音がないのは違和感があったけど、車はすぐに家にいるかのような感覚にまでなれることができた。四輪駆動では加速がすごく楽しかった」とコメントしていた。
世界最高峰デビューを果たした翌週には、鈴鹿でスーパーフォーミュラのシーズン前テストに参加する多忙なスケジュールで、オサリバンの2025年シーズンが始まった。
スーパーフォーミュラのシーズン前テストではクラッシュ、積雪によるキャンセルもあったが、鈴鹿での開幕戦ではいきなりQ2へ進み、山下健太をしのぎポイント獲得。
しかし鈴鹿の2戦目は野中誠太との接触からリタイヤ、続くもてぎは一貫したマシントラブルと山下とのダブルスタックとなったピット戦略に苦しみ、オートポリスではスピンとノーポイントと続いた。
同時参戦しているスーパーGTでは第2戦で早くも初表彰台を獲得したが、ピット作業手順違反で4位へと降格。
苦しいシーズンスタートではあるが、6月に富士スピードウェイで開催されたスーパーフォーミュラ合同テストでは最多周回数で1000kmを走破。今後のレースに期待を持てるテストとなった。

スーパーフォーミュラのレース後日曜にはすぐ日本を離れ、イギリスでのエンビジョン・レーシングのシミュレーションドライバーとしての役目を務める多忙な生活の傍ら、趣味であるグラフィックデザインを生かし自分のヘルメットをデザインするなど多岐にわたって才能を発揮するオサリバン。
しかしそんな彼も20歳相応のおちゃめな部分があり、富士での合同テストで筆者が写ルンですを渡した際は、それを片手に嬉しそうにサーキットを去っていった。

オサリバンがドライブするエンビジョン・レーシングは、2022-2023年シーズンのチームズチャンピオン。
今年はセバスチャン・ブエミとロビン・フラインスがステアリングを握り、ジャカルタE-Prix終了時点で69ポイントの10位につけている。
オサリバンはベルリンでのルーキーテスト起用に際し
エンビジョンのマシンをふたたびドライブすることを非常に楽しみにしている。ジェッダでのドライブは楽しかったし、ベルリンでマシンやレースに関してさらに多くのことを学べる素晴らしい機会だ
とコメントを寄せた。
もう1台のエンビジョンのマシンをドライブするのは、同郷で同マネジメント出身、FIA-F3に参戦した経験を持つジョナサン・ホガード。
オサリバンと同じくアストンマーティン・オートスポート・BRDC・ヤングドライバー・オブ・ザ・イヤーを受賞しており、彼もまたアストン・マーティン・レッドブル・レーシング(当時)のF1マシンをドライブするチャンスを与えたれた。
一度はF1マシンまでたどり着いた2人が、東西分断の歴史を持つドイツの首都ベルリンでテストを任される。
ルーキーテストはフォーミュラE 第14戦 ベルリンE-Prixの翌日に開催される。スーパーフォーミュラとともに世界最高峰の舞台で戦う若きイギリス人ドライバー、ザック・オサリバンの走行に注目してほしい。

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