
ABB FIA フォーミュラE世界選手権 第14戦東京E-Prixで、クプラ・キロのダン・ティクタムは今季初勝利を挙げ、第4戦以来となるレースでのポイントを獲得した。ティクタムは、モナコでの2レース連続ポールポジションをはじめ高いパフォーマンスを示しながらも、今季は接触や不運が重なり、来季のシート喪失がささやかれている。
東京での優勝直後、ティクタムは無線で「Can I have a job now, please?(仕事をくれないか)」と発言。すでにチームの来季ラインナップから外れていることを示唆する内容だったが、本人はこれを「ジョークのつもりだった」と釈明した。
「嫌がらせとまでは言いませんが…ジョークのつもりでした。チームとの関係が良好ではないのは公然の秘密です」
2021年のフォーミュラE参戦以来続くチームとの確執が取り沙汰されているティクタムだが、ガレージ内での関係には問題ないと強調する。
「ガレージの全員とは非常によい関係ですし、一緒に素晴らしい仕事ができています」

一方で、今年5月には今季のメキシコE-PrixとモナコE-Prixでの言動を理由にチームから戒告処分を受けたことが明らかになった。ラッセル・オヘイガン代表は、この処分を通じコミュニケーションの改善とプロとしての姿勢を求めていた。
ティクタムはこの戒告処分の発表に関し、チームへ不満があったことを認めた。
「処分の扱われ方と、名誉毀損的な公表のされ方に問題がありました」
また、オフシーズンの契約交渉を巡るチーム上層部への不信感も明かした。今季開幕までのオフシーズンのあいだに、契約更新のための交渉ができると認識していたティクタムだったが、望んでいた形での交渉の場が用意されなかったという。
さらに、今季のシートのために交わされた契約は、ティクタムが認識する”自身の価値”とはかけ離れた形でサインに至ったとも明かした。
「オフシーズンに再交渉できると言われていたものの、結局嘘をつかれた形になり後味が悪かった。僕の市場価値に対して、現在の契約内容は決して十分なものではありません」
一方で、来季クプラ・キロに残留する選択肢も完全には消えていないと語る。次期マシンGen4導入に伴い、ポルシェの最新パワートレイン(PT)が供給されるクプラ・キロの競争力は高いことが予想できる。
「正直なところ、チームとこの旅を続けたい。チームに残るという選択肢もまだあると思っています」
「特にポルシェのGen4なら、間違いなく強いマシンになるし、優勝もできるはずです。多くの優勝に、チャンピオンを獲得したりと、キャリアの素晴らしい一章にしたい」
しかし、現在も契約更新の交渉は進んでおらず、8月のシーズン終了を待つ状態が続く。
「数か月前、戒告処分が出た頃にラッセル(・オヘイガン代表)と話し合い、状況はポジティブになりました。ですが僕と契約したいかどうかを教えてくれず待機を求められています」
「他の多くのドライバーが契約を結んでいる中で、僕がしたとされる過去のどんな過ちも、僕をただ放置することを正当化できるとは到底思えません。他のドライバーたちから「来年は決まった?」と聞かれて「いいえ」と答えると、「君なしであのチームはどうするの?」なんて言われることもあります。個人的にはそうは思わないけど、それが一般的な見方なのでしょう」

ティクタムとチームが過ごしたここまでの5シーズンは、波乱にとんだ変遷の5年間であった。NIO 333時代に加入し、資金難によるERT、そして現在のクプラ・キロへの改名やポルシェ製型落ちPTの採用といった過渡期を経験した。
「僕は過去5年間にわたってチームのために尽力してきたと感じています。最初の3年間はダメなマシンで、常に自分を奮い立たせ、周りも盛り上げて前進し続けようとしてきました」
「実は数年前、提携したブローカーを通じチームの資金調達を手助けしました。僕がいなかったら実現しなかったんじゃないかと思っています。僕自身もそこから少しお金を得たから、貢献はしたはずです。そうやってチームのためにすごく努力してきたからこそ、嘘をつかれたりしたのが納得いかないんです」
「一方で、彼らが協力的にサポートしてくれたのも事実です。僕が何かミスをしたり言葉遣いを間違えたりした時はいつも僕の立場を守って戦ってくれましたから、全てがネガティブというわけではありません」
しかしながら、現在”不当な扱い”を受けている理由には、「その話に今深入りはしませんが」という慎重な前置きをしたうえで、チームに「大きな問題」があると強調した。
「単なる組織の歯車に過ぎない僕以上に、チームには大きな問題が起きています。それで本来扱われるべき扱いを受けていないと感じています。僕が得意な「速さを引き出す」という仕事ではなく、たった1%に過ぎない部分にエネルギーが注がれすぎています」
また、アメリカ資本のクプラ・キロは、高い独自性のソーシャルメディア運用やフォーミュラE側との関係性を持っている。オーナーからの”助言”で促されたそのSNS運用に関しても、上層部とのトラブルのきっかけになっていることも示唆した。
「SNSも、アメリカサイドやチーム全体が僕に個性を出すよう促してきました。それは構わない。でも、少し歯車が狂ったり、よい結果が出なかったりした時に、チームの士気低下やその他のくだらないことのスケープゴートにするのは違うと思っています」
そのなかで、今季の振るわないリザルトの原因を振り返った。
「F1のように年間22戦もあるシーズンなら運の要素は自然と均等化されるでしょうが、フォーミュラEのレース数では、突出して多かった不運が最後まで挽回されませんでした」

「今季開幕直後は、予選で2番手や5番手なのに両方ともクラッシュに巻き込まれて撃沈しました。序盤はただの不運でしたが、中盤のベルリンやモナコでは、主にチームの戦略面に原因があったと言わざるを得ません。モナコではやり方を大きく間違え、ベルリンでは実質2位を走行中にリタイア(DNF)。上海でも、雨が少し降り始めたからといってアタックモードを間違えたタイミングで使用しました」
「記憶にある中で過去最高に最悪なシーズンだった。本当に酷かったです」
「全体的な話では、使用するポルシェの型落ちPTではリヤエンドにいくつか違いがあり、そのシステムと古いパワートレインのせいで、レース中のトラクションにすごく苦しみます。気温が高いレースで、タイヤの適正温度を外れると、他のチームよりもずっと苦しくなってしまいます。パフォーマンスエンジニアのジャックやタイヤエンジニアのサイモンが何かできることはないかと必死に努力してくれたけど、カスタマーチームである以上、システムやソフトウェアの根本的な理念を変えるとなると手足を縛られてしまいます。色々な方向性を試したものの、どれも決定的な解決には至りませんでした」
「上海の前、予選に関するAIデータ分析をしました。デュエルに進出した回数、デュエルで勝った回数、全体的な予選順位などいくつかの要素を考慮してドライバーごとにスコアを出すと、僕が1位でした。平均予選順位では全体で3位、他の要素も加味すると僕が今シーズン最高の予選ドライバーという結果です。それなのに当時の獲得ポイントはたったの20ポイント。運のバランスが正常じゃないのです」
「最悪のシーズン」と語るティクタムだったが、チームメイトのペペ・マルティはモナコと三亜で2度の表彰台を獲得。ティクタムを取り巻く状況を見るにチーム間での軋轢もあるのではとも考えられたが、この関係を「本当に楽しかった」と語った。
「チームのどちらかが上手くいっていると競合意識や嫉妬が生まれて難しくなりがちだけど、ペペ(・マルティ)は絶対にそんな態度をとりません。ペペが幼い頃にF2で走っていた僕を見ていたこともあって、ドライバーとしてリスペクトしてくれています。だから本当に楽しかった」
「ルーキーを公正に評価するなら、彼はフォーミュラEの難解な戦略や難しさを素早く理解する賢い若者で、ハードワーカーです。彼と一緒に仕事ができたことは非常に光栄でした」
チームメイトとの関係性に「過去形」の表現を用いたティクタム。最後に、クプラ・キロ以外のチームとのコミュニケーションが進んでいることを明かした。
「まだどこに行くかは分かりませんが、ワクワクするような選択肢がいくつかはあります。もしチームに残るなら、もっとポジティブな形で前進したい。チームを去ることになるなら、シーズンをできる限り良い形で終えて、有終の美を飾りたいです」
「『フォーミュラEに残らなかったらどうする?』って聞かれましたが、もし残れなくても絶対に何かやることを見つけます。車やレースに囲まれていさえすれば、僕は幸せですから」
(文・写真=矢野 巧)







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