「F1は電動化の限界に直面している」フォーミュラE CEOがマックスの皮肉に反論。F1とFEの境界線は消えるのか?【トピック】

「F1は電動化の限界に直面している」フォーミュラE CEOがマックスの皮肉に反論。F1とFEの境界線は消えるのか?【トピック】

2026年2月17日、TDKのTokyo E-Prixタイトルパートナー就任会見の場にて、フォーミュラEオペレーション CEOのジェフ・ドッズ氏への囲み取材が開催。

奇しくも数日前、マックス・フェルスタッペンが「50:50(エンジンと電気の出力比率)」の新世代F1マシンに対し「ステロイドを打ったフォーミュラEのようだ」と吐き捨てた件について、本家フォーミュラEのジェフ・ドッズCEOが東京で口を開いた。

「不自然なF1」への痛烈なカウンター

2月のF1 バーレーンテストで、フェルスタッペンは新世代F1マシンを「運転していて楽しくない」「不自然だ」と猛烈に批判した。エネルギー回収のためにコーナーで必要以上に減速を強いられる現状を「フォーミュラEでやるべきことだ」と断じたマックスに対し、ドッズCEOはこう切り出す。

F1ワールドチャンピオン決定を喜ぶマックス・フェルスタッペン(2022)

マックスの指摘は正しいと思う。今のF1はよりストリートサーキットを活用する方向へ進んでいるし、電動化も進んでいる。エネルギーマネジメントや戦略の重要度が増している点において、F1は我々(フォーミュラE)が取り組んでいる領域にどんどん近づいてきていると言えるでしょう。

さらにドッズCEOは、F1が抱えるジレンマについて示唆。

さらに電動化の観点から付け加えると、F1が目指している「50:50(エンジンと電気の出力比率)」というバランスは、内燃機関を維持したまま電動化を進める上での限界点でしょう。
これ以上に電動化の比率を上げれば、車体は重くなり、速度はさらに落ちていくはずです。実際、今年のマシンは昨年のものより遅い。つまり、彼らはこれ以上「電気」を増やすことはできません。

ドッズ氏はフォーミュラEの優位性を「純粋さ」にあると断じる。「我々は世界で唯一、ピュアな電気の力だけでパフォーマンスを発揮できるシリーズだ」と語るその言葉には、ハイブリッドの複雑さに足を取られるライバルへの明確な差別化が込められていた。

F1を支える10人のFEドライバー

フェルスタッペンが引退をちらつかせる一方で、ドッズCEOは意外な事実を明かした。現在、フォーミュラEドライバーのうち半数にのぼる10人が、F1チームにシミュレータードライバーやリザーブドライバーとして雇用されているというのだ。電動車レースの長はさらにこう付け加えた。

F1チームは、どうすれば電動化されたマシンのベストを引き出せるか、フォーミュラEのドライバーから学んでいる。二つのカテゴリーは、かつてないほど接近しているんだ。

マックスが「嫌っている」エネルギー管理のノウハウこそが、現在のF1を走らせるための必須スキルになり、その頂点にいるのがFEドライバーたちであるという皮肉な現象が起きている。

FEにもやって来る”高速化”の波

F1とFEの接近は、F1側の一方的な歩み寄りではない。フォーミュラEは来シーズン、新型マシン「GEN4」を導入し、シリーズの性質を根底から変えようとしている。
最大出力600kW、常時アクティブ4WDの導入により、マシン性能が飛躍的に向上。0-100km/hの加速では2026年仕様のF1を凌駕すると言われている。

しかし、この変化に対する市場の反応は複雑だ。
F1に近い出力を得れば、空力パーツを多用したダウンフォースマシンになるのは必然。それは現在のフォーミュラEの醍醐味である「肉弾戦」や、コンパクトな車体が生み出す「激しい順位変動」が失われるのではないか、と危惧する声が多い。

F1のFE化“よりずっと前から、”FEのF1化“は議論され続けていたのである。

イノベーションの展望

話題はすでに、GEN4の先にあるGEN5へと移っている。記者から「GEN5での全固体電池導入や、バッテリー開発の自由化について現状を教えて下さい。」と聞かれたドッズCEOは、3つの可能性について言及した。

  1. タイヤの革新:現在は溝付きの全天候型タイヤを使用しているが、GEN4からはスリックタイヤ(溝がないレース用タイヤ)へと移行する。これだけで1周あたり2〜3秒の短縮が見込まれており、素材の進化がパフォーマンスをさらに押し上げる。
  2. 全固体電池:電解質を固体に置き換えた次世代のバッテリー。現在の液体リチウムイオンバッテリーに比べ、遥かに高いバッテリー密度と高出力を誇る。「これこそが最大のゲームチェンジャーだ」と語るドッズ氏は、バッテリー重量を20%〜40%削減できる可能性に言及。FEマシンの重量の大半を占めるバッテリーが軽くなることは、運動性能と電費の双方に劇的な恩恵をもたらす。
  3. トルクベクタリング:コーナリング中の出力バランスを駆動輪ごとに電子制御で変更し、主に外側に駆動力を配分することで、アンダーステアやスピンを抑制して高速コーナリングを実現。

「Gen5がどのような姿になるにせよ、パフォーマンスは飛躍的に伸びる。Gen4の時点ですでに、現在のGen3からは信じられないほどのステップアップを果たすことになるだろう」とドッズ氏は断言した。
ちなみに、現在まで4年ごとにマシンの大幅な世代交代をしているフォーミュラEだが、そういったルールがあるわけではない。「もし破壊的な技術革新があれば、4年を待たず導入することもある」とのこと。

現在のGEN3 Evoマシン。溝付き全天候タイヤ一種類のみで、天候問わずこのタイヤを使う。

揺らぐアイデンティティと、失われゆく市街地

FEのF1化“が騒がれているのはマシンだけではない。それはサーキットだ。
当初、フォーミュラEは「市街地コース開催」を原則としていた。騒音や排気ガスと無縁なEVの特性を活かし、都市の市民に持続可能なモビリティをアピールすること。そして、ファンが公共交通機関で気軽にアクセスできること。この「都市との共生」こそがFEのDNAであり、フォーミュラE最初のシーズンはカレンダー全10戦のすべてが市街地コースで行われた。

Beijing E-Prix, China, Saturday 13 September 2014. Photo: Glenn Dunbar/LAT/ Formula E
STREETS OF PARIS, FRANCE – APRIL 27: Gary Paffett (GBR), HWA Racelab, VFE-05 during the Paris E-prix at Streets of Paris on April 27, 2019 in Streets of Paris, France. (Photo by Steven Tee / LAT Images)

しかし、それから11年が経ち、状況は大きく変わった。パリ、ローマ、北京、ニューヨークといった大都市は、市長の交代や資金難などでフォーミュラE開催から手を引き、今シーズンのカレンダー(全11都市)のうち、完全に公道で行われているのはモナコE-Prixだけ。東京、三亜(中国)、サンパウロ(ブラジル)が公道と私有地を共有し、上海E-Prix(中国)や、ハラマ・サーキットで行われるマドリッドE-Prix(スペイン)に至ってはただの常設サーキットだ。

そしてこの流れはGEN4の導入でさらに加速する。飛躍的に速くなるマシンを、狭い市街地コースで走らせるには限界があるのだ。イギリス最大の展示場、Excel Londonで行われているロンドンE-Prixは、GEN4導入に合わせて開催場所をF1開催実績もあるブランズハッチに変更すると見られている。

今年が最後の開催と噂されているLondon ExCel Circuit

東京E-Prixにおいても同じ対応が迫られるのではないかと危惧した記者から、「鈴鹿サーキットなどと開催に向けた交渉はしているか?」と質問が。それにドッズCEOは「私たちは鈴鹿サーキットと一切交渉していません、断言します。私たちは東京の中心部でレースをすることを愛しています。」と一刀両断。続けて、「日本には鈴鹿、富士など素晴らしいサーキットがたくさんあります。固定サーキットには「(設営コストが)圧倒的に安い」「施設が整っている」という経済的なメリットがあるのは承知していますが、大きな課題は”都市部から遠い”ことです。」と説明。

「都市部から遠いということは、ファンが自家用車を運転してサーキットに行くということ。そこで多大なCO2が排出されます。ですので、自動的に既存のサーキットに目を向けるのではなく、あくまで都市部での可能性を模索します。」と、”都市部へのこだわり”を強調した。

交錯する二つの未来、その「極点」はどこにあるのか

2026年、モータースポーツ界が直面しているのは、単なる技術規則の変更ではない。それは、F1とフォーミュラEという、対極に位置していた二つの波が、それぞれの「正解」を目指して加速した結果、同じ場所で激しく衝突している姿そのものである。

F1は、内燃機関(ICE)という伝統を捨てきれないまま先の見えない電動化を強行し、その歪みにドライバーたちが悲鳴を上げている。一方でフォーミュラEは、待望の「速さ」を手に入れる代償として、シリーズの象徴であった「市街地」という牙城を崩されかねない危機に瀕している。

マックス・フェルスタッペンが「ステロイドを打ったフォーミュラE」と揶揄したF1と、スリックタイヤを履きF1を凌駕する加速を手に入れる「GEN4」以降のフォーミュラE。両者の境界線が溶けゆく中で、ジェフ・ドッズCEOが「鈴鹿」を明確に拒絶し、「都市」に殉じる姿勢を見せたのは、シリーズの魂を死守せんとする抵抗のようにも映る。

「F1はこれ以上電気を増やせず、フォーミュラEはこれ以上都市から離れられない」

この二つが交差したとき、真の「未来」を牽引レースはどちらになるのか。それを決めるのは、他でもない。それぞれが環境意識を持ち、自動車の購買やファン活動を通して自らの意思を表明する、あなたたちユーザーなのだ。100年に一度の大変革期はまだ終わっていない。

――ちなみに。ドッズ氏のもとにマックスからの返信は、届いていないそうだ。

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