【独占取材】「テスト乗らないの?」って連絡がきっかけ…ローラ・ヤマハ陰の立役者、飛雲・バーター

【独占取材】「テスト乗らないの?」って連絡がきっかけ…ローラ・ヤマハ陰の立役者、飛雲・バーター

シーズン11のフォーミュラE・ベルリンルーキーテストでローラ・ヤマハのステアリングを握ったのは、日本とオーストラリアとのハーフである飛雲・バーター。
シミュレータードライバーとして新参チームであるローラを支える彼へ取材した。

Q.はじめに、生い立ちとキャリアを教えてください

生まれたのは名古屋市名東区、その後2歳半の時にオーストラリアへ引っ越したんだ。

ヨーロッパに来たのは2021年の2月、15歳の時。フランスF4参戦のためにフランスへ来たんだ。
F4参戦前は普通なら15から20日間テストすることができるんだけど、僕の時は非常に限られた時間しかなく、7日間のテストだけで開幕戦に向かう必要があった。
初めての車とトラックだったけど、そのなかで最高のシーズンを送ることができた。フランスF4のほかにもスペインF4に参戦して、どちらも素晴らしいデビューシーズンを過ごすことができた。ふたつのチャンピオンシップで15回以上の優勝でシーズンをフィニッシュできたのは本当に大成功といえるね。

そして、F4の翌シーズンには直接FIA-F3にステップアップすることができたんだ。多くのドライバーたちはF4を卒業するとFRECA(Formula Regional European Championship by Alpine)やEuro Cup-3を経由してF3を目指すことになるから、これは普通の経歴ではないと言える。
それに関しては僕たちにとっても、スポンサーのみんなにとっても最高の結果だった。

2022年のF3は簡単なシーズンではなかった。残念ながらスポンサー支援がなくなってしまったし、ベストなパフォーマンスを発揮できたとは言えなかった。でもそのなかで本来の速さを何回も見せることができたと思う。

その後は1年間レースを休む形になったから、今回のテストが復帰戦といえるかな。
テストはいい結果となったし、今後もローラ・ヤマハと一緒にキャリアを歩めることを願ってるよ。僕のこれまでの経歴は変わっているといえるだろうけど、ここでさらにドライバーとして前進していけるというのは素晴らしいんだ。


Q.ローラ・ヤマハと契約したきっかけは?

ローラのスポーティング・ディレクターを務めているマーク・プレストンから連絡が来て、それがテストドライバーとして加入するきっかけとなったんだ。
「シミュレーターに乗ってテストしてみないか?」
ってね。そのシミュレーターの結果に満足してもらえて、僕のローラ・ヤマハでの仕事が始まった。

Mark Preston / マーク・プレストン

すると、「ルーキーテストで実際に車に乗るのもいいアイデアじゃないか?」と言われて、ベルリンルーキーテストに参加することが決まったんだ。
僕の目標としてはこのローラ・ヤマハとの関係を継続していくこと。ハーフの日本人ということからもいい関係性が築けていけると思うし、将来が楽しみだよ。

今週末は土曜日からレースに帯同したけど、ドライバーとエンジニアの間のコミュニケーションの量に関してはみんな驚くと思う。
実際、想像よりずっと多くのやりとりが行われていて、レース中も無線ではずっと話続けているんだ。しかも途切れることなくね。
これはガレージにいないと気づけないことのひとつだね。


Q.テストでの感触は?

P7で終えられたテストは非常に成功した内容だと思ってる。
一日を通して安定したペースで走れていたけど、実際のところラップを完璧にまとめるという点では少し苦労したんだ。
でも、効率的な結果となってチームも満足していた。多くの項目を試すことができたのもハッピーだったね。
知っての通り、実車のテストには厳格な制限が設けられているから、ローラ・ヤマハのような新しいチームにとって開発というのは非常に大変なことなんだ。だからこそ、今回は学習の機会としても完璧で、次のシーズンに向けてのいい準備になったね。
安定して効率的な完璧なテストになって、個人的にもチームとしても大満足な結果となったよ。


Q.シーズン9ではマセラティからルーキーテストに参加していましたが、前回ドライブしたGen3と今回のGen3 Evoとの差は?

一番大きな違いは四輪駆動になったことで、トルクの強さとトラクションの向上は信じられないほど驚異的なんだ。
実際、ラップタイムに目を向けると1秒から1.5秒速くなっていて、運転しているとその違いがはっきり感じられるし、トラクションが増したことで加速が10倍はよくなったと感じるよ。

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Q.マセラティとローラのふたつのチームの差はどんな点にありましたか?

ローラ・ヤマハとマセラティのチームを比べるのは難しいね。
ローラは新規参入チームで、多くの箇所を開発中な一方、マセラティは僕がテストに参加したときにはすでに多くの経験があったと思った。
そして、単純に比較するのは難しいけど、マセラティはステランティス・グループの一員としてペンスキーとも組んでいるから、一戦で4台分のデータを得ることができるのに対して、ローラ・ヤマハは2台分のデータに限られてしまう。
レースウィークで試せるチャンスも限られてるから、これは開発面ではハンデになるといえるね。
一番の差はそこにあると思う。

©FE navi! – Monaco E-Prix

Q.シミュレータードライバーとしての役割は?

シミュレーターでの仕事という面では、まだ開発を続ける必要があると感じた。
僕の役割としては、すべてのレースの週末の準備を担当してる。少なくともレースの1、2週間前からファクトリーでの仕事が始まるんだ。
この仕事は、すごく簡単な時とすごく大変な時が日によって大きく分かれる。その日のタスクに応じてね。
住んでいるフランスから、シミュレーターのあるドイツまで毎回飛行機に乗って、作業を開始する前の日にファクトリーに入る。
翌朝は9時半にはファクトリーに入って、15分から30分のミーティングをしてからシミュレーターに乗るんだ。
10時から13時まで走行し続けて、キャリブレーションを行って必要なテストを始める。
「レギュラードライバーがやりたくない項目」をここで試すんだ。
これでドライバーがシュミレーターに乗った時にすぐ作業を始められるようになるからね。

そのあとは1時間の休憩をはさんでまた走行をする。運が良ければ17時には終わるけど、普段は18時半頃かな。
時には30分以上シミュレーターに座ったまま待機することもあるんだ。
終了したら当日か翌日には帰宅する。体力的にきついわけではないけど、拘束時間は長く感じるね。

Q.最後に、ドライバーとして将来の目標を教えてください

将来的に目指しているのは日本でのレースなんだ。
スーパーフォーミュラライツはいいチャンスになると思ってるよ。もちろん僕もスーパーフォーミュラを目指しているからね。
日本でレースができるならどのカテゴリでも最高なんだけど、やっぱり日本最高峰であるスーパーフォーミュラは素晴らしいと思ってるから、それがメインの目標だね。
ぜひとも日本でレースをしてみたいんだ。

自身2度目のルーキーテストで86周を走破。最終的にガブリエーレ・ミニの最速タイムから0.5秒差の7番手で終えている。
経験の豊富なルーキードライバーともいえるバーターは”過激なセットアップ”にも挑み、ドライバビリティの問題を抱えるローラのマシンの改善に向けて大事なセッションともなった。

今回、テスト直前に急遽参加が決まったウイリアムズF1育成のフランス人、アレッサンドロ・ジェスティがバーターとともにドライブ。そのジェスティは最後のセッションで初走行ながらバーターの0.02秒遅れの9番手につけており、シミュレーターとの相関が取れた非常によいセットアップのもと走行できたことがうかがえる。

シーズン11のローラ・ヤマハは、ルーキーのゼイン・マロニーがノーポイントでチャンピオンシップ最下位に沈んだほか、ドライバビリティ由来のペース不足に苦しんだシーズンとなってしまった。
そんななかマイアミE-Prixではルーカス・ディ・グラッシが1度の表彰台を持ち帰っているなどポジティブな面もあり、翌シーズン以降のさらなる活躍は、レギュラードライバーのふたりはもちろん、飛雲・バーターの手にも任されているといえるだろう。

その飛雲・バーターはレギュラードライバーとして日本でのレース参戦を目指している。
F1に次ぐ速さを持ち、チャンピオンがフォーミュラEでも活躍する日本最高峰、スーパーフォーミュラの舞台で彼を見れることになるのか期待が高まる。

左から、クリスチャン・バーター(父)、アレッサンドロ・ジェスティ、飛雲・バーター
ピットウォークで配られたドライバーカード。漢字はバーターの手書きだ。
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