
1977年に国際連合(国連)総会で採択され制定された国際的な記念日が、3月8日の「国際女性デー」である。その起源は1857年3月8日、米ニューヨークで女性労働者が低賃金や長時間労働に抗議した行動が原点とされる。さらに1908年には、賃金改善や労働時間短縮、婦人参政権を求める女性たちが「パンとバラ」を掲げてデモを実施した。以降、3月8日は女性の政治的自由と平等の実現に向け行動する象徴的な日として定着している。
こうしたジェンダー平等の潮流はモータースポーツに及び、フォーミュラEは、FIAとともに多様性と平等に対するコミットメントとしてモータースポーツにおける女性の地位向上に向け多くの取り組みを行ってきた。
象徴的なのが女性テストの開催である。2018年のディルイーヤE-Prix翌日に実施されたインシーズンテストでは9名の女性ドライバーが起用された。その後、シーズン11(2024/2025年)開幕前のプレシーズンテスト最終日には女性限定セッションを新設。FIA世界選手権として初めて参戦する全チームに最低1名の女性ドライバー起用を義務付け、2名の起用も推奨する形で実施。合計18名がエントリーした。
2024年の女性テストは3時間のセッションで行われ、0-60mph加速1.82秒を誇る最新マシン「GEN3 Evo」を使用。当時のF1マシンを上回る加速性能を持つ車両を、レギュラードライバーと同条件で走らせる機会が提供された。

このテストにはフォーミュラ・リージョナル・ジャパニーズ・チャンピオンシップの2022年チャンピオンである小山美姫(ローラ・ヤマハ)、W SeriesやF1 Academyチャンピオンのジェイミー・チャドウィック(ジャガー)やアビー・プリング(日産)、FIA F2選手権やスーパーフォーミュラ選手権に参戦したタチアナ・カルデロン(マセラティ・当時)らトップ女性ドライバーらが多く参加した。
フォーミュラEはこの施策について、「女性ドライバーに単なる”Destination”(到達点)を示すのではなく、最先端技術のもとでキャリアと技能を発展させるための明確な”Pathway”(道筋)を提供することが目的」と説明。参入障壁を構造的に取り除く長期戦略の一環と強調する。
翌シーズン12(2025/2026年)もプレシーズンテスト最終日に女性テストを継続開催。走行時間は前回の2倍となる合計6時間へ拡大し、14名が参加。制度としての定着を印象付けるテストとなった。

このテストでは、プリング(日産)、チャドウィック(ジャガー)をはじめ、シーズン11のテスト後に開発ドライバーとしてチームと長期契約を結んだドライバーも名を連ねた。女性テストが実際のキャリア機会へ接続している点が注目される。
また、スーパーフォーミュラ選手権参戦中の野田樹潤(ジャガー)も参加。初開催のテストに引き続き多様なカテゴリ参戦中のドライバーがステアリングを握った。
2月のマイアミE-Prix前日に実施されたルーキードライバー限定セッション「FP0」では、プリングやクロエ・チェンバース(マヒンドラ)が男性ドライバーと同条件で走行。レース週末直前のデータ取得やエンジニアリング評価を担う本格的なセッションに起用されたことは、女性ドライバーの実戦的機会の拡大を示している。
さらに、マドリッドE-Prix翌日の3月22日に開催予定のルーキーテストにも男性ドライバーとともに複数の女性ドライバーが名を連ねる見通しで、女性ドライバーがグリッドに近づく機会は着実に広がっている。
フォーミュラEのCEOであるジェフ・ドッズは初回女性テストを前に、「モータースポーツにおける多様性拡大に単純な解決策はない。しかし真の平等と機会を与えるには、既存のグリッドと同じ条件で自らを試せる環境が必要だ」と述べた。旧型車や制限付き車両ではなく、F1マシンを上回る加速性能を持つ現行車両GEN3 Evoを使用した点についても、「どこかで始めなければならない。道のりは長いものの、継続的かつ積極的な一歩を積み重ねることが重要」と強調している。


また、女性テスト期間中には、地元女性を対象とした「FIA Girls on Track」プログラムも実施。女性ドライバーの走行観戦や交流に加え、モータースポーツ全体でのキャリア形成を促すワークショップを開催した。
同プログラムはシーズン11以降さらに強化され、フォーミュラEの全開催地で展開されており、12歳から18歳までを対象に無償で実施されている。実践型アクティビティや専門ワークショップ、パドックへの特別アクセスなどを通じ、競技の裏側に触れる機会を創出し、次世代のモータースポーツ人材の育成と裾野拡大を狙う。単発の啓発活動のみにとどまらず、長期的な人材基盤の形成を見据えた施策とされている。
今季も全大会で実施予定で、東京E-Prixでも同様に若年女性を対象としたエントリーが今後始まる見込みだ。

今季女性テストに参加した野田樹潤の父で、マネジメントなどを担う野田英樹氏はフォーミュラEの取り組みについて、「過去の慣習にとらわれない挑戦が魅力。発足からまだ日が浅いチャンピオンシップでありながら、他のカテゴリーとは異なる独自の道を歩み、急速な成長を遂げてきた。経験豊富なドライバーだけでなく、若い才能がGen3 evoで競い合う環境は、このシリーズならではのもの。技術面でも進化を続け、Gen3時代を経て、すでに次世代のGen4への期待も高まっている。フォーミュラEは、いまやレース界をリードするチャンピオンシップのひとつであり、多様な才能が挑戦できる舞台として存在感を強めている」とコメントを寄せた。

モータースポーツは男女が同条件で競うことが可能な数少ないスポーツ分野の一つとされるが、依然として男性中心の構造が続いている。FIAによれば、世界のトップカテゴリーにおけるレーシングライセンス保有者のうち女性はわずか3%にとどまる。
フォーミュラEとFIAは、社会的側面からの持続可能性を追求。制度的な取り組みを基盤に女性の社会参画を支援することで、モータースポーツ産業における構造的な変化を促す試みを進めている。




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