
今月19日、ABB FIA フォーミュラE世界選手権の三亜E-Prixが、2019年以来となる復活を遂げる。今年は三亜に続き上海でのダブルヘッダーも控えており、中国国内で計3ラウンドが開催されるカレンダーとなった。EVシフトが急速に展開される中国は、フォーミュラEにとっても、参画する自動車メーカーにとっても最重要市場の一つだ。しかし、今回の舞台となる三亜が持つ魅力はそれだけではない。
「中国のハワイ」と称されるビーチリゾートの海南島は今、アジアの新たな貿易・観光の玄関口へと変貌を遂げようとしている。
海南島では、2025年12月18日から「封関運営」が始動した。このゼロ関税政策の島内全面導入により、インバウンド市場はすでに成功の兆しを見せている。さらに自由貿易港の施策も相まり、「新たな香港」として中国国内での勢いをさらに強めている。
新華社通信の報道によると、この封関運営が実施される直前の2025年時点において、すでにインバウンド宿泊者数は前年比35.2%増の150万人を突破。イギリス、フランス、ドイツ、イタリアといった欧州主要国からの観光客が急増していた。さらに、今年の一定期間における海南省の出入国旅客数は前年同期比43.3%増を記録。自由貿易港としての開放政策は、早くも結果を残し始めている。
今回、三亜E-Prixのレース会場に選ばれたのは、三亜市の中心地ではなくリゾート地として発展を遂げる「海棠湾」エリア。2019年開催時と同じ会場、同じレイアウトでの開催となる。この場所は、三亜市と深圳の聯信国際投資有限公司のタッグにより、「EVエンターテインメント拠点」としての開発を進めてきたインバウンド特化型のビーチリゾートだ。2023年時点での推定投資額は50億元(約1,100億円)にのぼり、そのうち約4割の資本が香港の投資家によって提供されている。

Photo: Molly Darlington / LAT Images
この会場の最大の特徴は、リゾート空間とサーキットの圧倒的な近さだ。コースは複合施設の敷地内を通過するように設計されており、レース中のケータリングサービスもこれらのラグジュアリーホテルから直接提供される。観戦客はフォーミュラEのレースを堪能した直後、そのままホテルの自室に戻り、余韻に浸りながらプールで泳ぐというような、これまでにない観戦スタイルが可能となる。
このラグジュアリー施設の開発は、三亜市投資促進局がかねてより最重要案件として推し進めてきたものだ。23年、同局の計画構想では「電気自動車レース文化を促進し、高級品も取り扱うエンターテインメント複合施設を建設したい」との方針を掲げていた。
2025年11月1日には島内の離島免税ショッピング政策が大幅に改定。旅行者1人あたりの年間免税購入限度額が10万元(約220万円)へと引き上げられ、対象も47カテゴリーへと拡充された。このような追い風を受け、フォーミュラEという新たな観光資源を発信すると同時に、インバウンドを取り込む封関政策の恩恵を最大限に享受する、双方のメリットを融合させた複合施設が完成した。
また、海南省政府は2026年末までに島内のすべての高級景勝地や主要ホテルにおいて、「中国語、英語、ロシア語、日本語、韓国語」の5言語による案内表記を義務付けているほか、1万人規模の国際観光サービス専門人材を育成するなど、インバウンド環境の整備を進めている。

その中でも、国際社会からの制裁により国際線の就航都市に限りがあるロシアやベラルーシからの観光客誘致には極めて積極的だ。ベラルーシ・ミンスクからの直行便就航など、近年の空路拡充を見てもその狙いは明らかである。
三亜E-Prixは、22年のウクライナ侵攻を機に自国でフォーミュラEをはじめとする世界選手権が開催されないロシア人観光客に対し、極上のリゾート空間で最先端のEVレースを提供する絶好の機会となる。香港の投資家や三亜市にとって、経済的に結びつきの強いロシア人富裕層へ、レースを通じリゾートとしての独自の優位性と価値を提供する重要な機会ともなる。
三亜市投資促進局が「最重要案件」として、フォーミュラE誘致を目標に推し進めてきたこの複合開発は、「EVレース文化の促進」と「ゼロ関税の高級エンターテインメント」を融合させたこの前例のない巨大プロジェクトだ。
ついに今年、7年ぶりのフォーミュラE開催が現実のものとなる。世界中から集まる富裕層やモータースポーツファンの期待にどう応えるのか、三亜市、そして海南省政府の観光・経済戦略の腕の見せどころがいよいよやってきた。
(文=矢野 巧)






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