オペル20年ぶりのワークス復活。フォーミュラE『OPEL GSE 27FE』公開と、CEOが語る「電動化の確信」の真意

オペル20年ぶりのワークス復活。フォーミュラE『OPEL GSE 27FE』公開と、CEOが語る「電動化の確信」の真意

オペルは4月22日、オペル・GSE・フォーミュラEチームの最初のマシン【OPEL GSE 27FE】のプロトタイプをフランスのポールリカール・サーキットで公開した。

前半では今回発表された新型マシンについて深堀り。後半では、オペルの現在地と『なぜ今、モータースポーツへの帰還を決めたのか』という戦略的背景を紐解いていく。

「オペルGSEにおいて、我々は『レース・ドライブ・プレイ』という明確な戦略を掲げています。そして2026年は、間違いなく『レース』が主役の年になるでしょう!」と、マーケティング担当副社長のレベッカ・ライネルマンは宣言した。「電動パフォーマンスがいかに刺激的であり、かつオペルというブランドにとっていかに重要なものであるかを、我々は今ここで証明します。

新生フォーミュラE 「GEN4」の衝撃的な性能

OPEL GSE 27FEは、来シーズンから導入されるフォーミュラE「GEN4」規定に準拠。そのスペックは以下の通り、これまでのGEN3 Evoとは一線を画す性能を持ち、電動モータースポーツを新たな次元へと押し上げる。

  • 駆動方式: フォーミュラE初の常時全輪駆動(AWD)
  • 最高出力: 予選やアタックモード時は最大600kW(約816馬力)を発揮、先代から71%向上
  • レース出力: 通常レース時でも450kW(約600馬力)となり、先代比で50%向上
  • 0-100km/h加速: 約1.8秒
  • 最高速度: 335km/hに到達
  • 回生能力: 最大700kWのエネルギー回収により、レース中の消費エネルギーの約40〜50%を賄う
  • 空力パッケージ: 予選用の「高ダウンフォース」と決勝用の「低ダウンフォース」の2種類
  • タイヤ: ワンメイクメーカーにブリジストンを指名。全天候型と大雨用)の2種類を導入
  • 操作性: フォーミュラEで初めてパワーステアリングを導入
  • サステナビリティ: レーシングカーとして初めて100%リサイクル可能で、ボディ等の20%以上にリサイクル素材を使用
  • 車体寸法・重量: 全長5,540mm、全幅1,800mm、重量954kg(ドライバー除く)

800馬力を超える新・フォーミュラEへの挑戦

「本日我々が公開したのは、単なるプロトタイプ以上の存在」と、オペルGSEフォーミュラEチームのヨルグ・シュロット代表は語る。「このGSE 27FEは、当社の量産車開発、とりわけGSEパフォーマンスモデルの進化を加速させるための『戦略的な技術アクセラレーター』なのです。」

さらにシュロット代表は、新規参戦チームとして莫大な工程数の参戦準備が必要であると説明。「テストベンチでの長時間の検証を経て、現在はパワートレイン全体を車体に統合しており、5月初旬からは実際のサーキット走行を開始します。今後数ヶ月間は、ベンチテストとサーキットでの実走テストを戦略的に繰り返し、シーズン開幕までに、欧州各地のサーキットで約15日間のテスト走行を完了させる計画です。」

「ハイスピードDNA」を体現したデザイン哲学

「これほどの速さを持つ車が、静止している時ですらそのスピードを伝えるにはどうあるべきか?」という問いから生まれました。

こう語るのは、オペルのグローバルブランドデザイン責任者のピエール=オリビエ・ガルシア氏。「その答えが、ボディを彩る印象的な「ライトスピード(光速)」グラフィックです。鮮やかなイエローのアクセントが効いたこのデカールは、オペルの輝かしいモータースポーツの歴史とレーシングDNAを、現代的なイエローのデザインで表現しています。
デザインを通じて、レースカーがトラックを走る前から、そのスピードとパフォーマンスを疑いようのない形で可視化したいと考えました。『OMG! in a blink(刹那の衝撃)』という言葉こそが、この意図を完璧に言い表しています。即座に伝わるインパクト、圧倒的な存在感、そして現代の電動レースが持つ集中したエネルギー。すべてのライン、すべての面、すべてのディテールが、デザインを通じて表現された精密工学という明確なビジョンに貫かれています。」

フロントには「オペル・コンパス(オペルのデザイン言語)」が配置。2025年にモッカ・GSE・ラリーで導入されたGSEデザイン言語をさらに進化させ、無骨なラリースタイルから、ハイテクかつ高速なフォーミュラEのための新しい視覚的効果へと昇華させている。

なお、今回の発表はあくまでプロトタイプのもの。最終的なデザインは、10月に開催されるパリ・モーターショーのオペル・ブースで発表される見込み。

ソフィア・フローシュによる”手応え”

このOPEL GSE 27FEのステアリングを初めてサーキットで握ったのは、テスト&開発ドライバーのソフィア・フローシュ。ドイツ・ミュンヘン出身の女性ドライバーで、過去にはWECやFIA F3に参戦。ヨーロピアン・ルマン・シリーズでは総合3位表彰台を獲得した実力者。
彼女は初期のシミュレーターセッションから実走テストに至るまで、開発の全工程に密接に関わっている。

フローシュは初走行を終え、次のような手応えを語った。「シミュレーターでの準備を経て、ここポール・リカールで初めてオペルのGEN4レースカーをドライブできたことは、言葉にできないほど感動的な瞬間でした。凄まじいトルク、そしてこの全く新しい次元のパフォーマンス、まさにモータースポーツの未来を感じます。私は限界に挑む準備ができています。」

Opel_2025, For Press and PR only, marketing usage has to be payed in addition

オペルのパフォーマンスブランド「GSE」の真髄

発表イベントでは、フォーミュラEとGSEモデルがいかに密接にリンクしているかをアピール。サーキットにはGSE 27FEを中心に、以下のモデルが集結し、共にラップを刻んだ。

モッカ・GSE:市販パフォーマンスモデル

オペル・コルサGSE:2026年発売予定の新型プロトタイプ

オペル・マンタGSe:コンセプトアイコン

Opel Manta GSe

オペル・モッカGSEラリー:FIA eRally5準拠のラリー競技車

「私たちのGSEストーリーのすべての要素が、今日ここで一つに結びついたことを印象的に示すことができました」とレベッカ・ライネルマン副社長は述べる。「私たちは、感情に訴えかけるパフォーマンスブランドとして、一貫してGSEを拡大しています。フォーミュラEは、テクノロジー、ハイテク・イノベーション、サステナビリティ、そしてファンの熱狂をユニークな形で融合させ、その中で極めて重要な役割を担っています。」

「GSE」は「Grand Sport Electric」の略称であり、特にハイパフォーマンスな電動車に冠される。オペルは3月中旬にワークスチームとしてフォーミュラE参戦を正式発表しており、この世界選手権を「全電動ハイパフォーマンスモデル」のグローバルな舞台として活用する。

「フォーミュラEは世界で最も急速に成長しているレースシリーズであり、それこそがオペルのいるべき場所です」とライネルマンは強調。「私たちはこの妥協のないパフォーマンスをプロドライバーだけのものにするつもりはありません。お客様にも、このスポーティでダイレクトな『OMG! なドライブ体験』を楽しんでいただけるよう、コルサGSEなどの市販モデルレンジをさらに拡大していきます。」

何故、オペルはモータースポーツに帰ってきたのか。

19世紀、ドイツで産声を上げたオペル。長年にわたりゼネラルモーターズ(GM)傘下でその歴史を刻んできたが、2017年にグループPSA(プジョー・シトロエングループ)による買収を経て、2021年には同グループを中心とするステランティスが発足し、今日に至る。

オペルはモータースポーツの歴史においても輝かしい経歴を持ち、1982年にアスコナ400でWRC(世界ラリー選手権)を制覇。1996年にカリブラV6でITC(国際ツーリングカー選手権)の頂点に立ち、2003年にはアストラV8クーペでニュルブルクリンク24時間レースを制した。しかし、今回のフォーミュラE参戦は、実は約20年ぶりとなるワークスチーム復活なのである。長らくモータースポーツの表舞台から遠ざかっていたこの老舗ブランドが、過去に類を見ない規模で、いま再びの「覚醒」を遂げたのだ。

Opel, 1982年に世界ラリーチャンピオンを獲得したアスコナ400。ドライバーはワルター・ロール。
なぜ今、歴史あるオペル・モータースポーツの針を再び動かし始めたのだろうか。

その背景には、親会社であるステランティスの強い意向が反映されている。同グループは2025年に「マルチエネルギー戦略」を掲げ、既存のSTLAプラットフォームを大幅に改良。同一車種であっても、ICE(内燃機関)、BEV(電気自動車)、HEV、MHVなど、多様なパワートレインを選択できる基盤を構築した。これはひとえに、「顧客に移動手段を自由に選択する権利を与える」という確固たる理念に基づいている。その成果として、アウディ、フォルクスワーゲン、メルセデスベンツなどの超大企業が名を連ねるドイツブランドの中で、オペルは一番最初に全てのモデルにBEV(電気自動車)をラインナップしたメーカーになった。

そこには、流動的な現代の自動車業界で見失われがちな「操る楽しさのための電気自動車」という需要も含まれている。エコや環境保護といった大義名分は一旦脇に置こう。電気自動車には、ICEでは決して到達できない加速性能や運動性能、緻密な車体制御や知能化といった、未知なる領域が広がっているはずだ。オペルはその可能性を、決して見捨てなかったのである。

オペルのフローリアン・ヒュットルCEOは、3月に行われた参戦発表の場で「電気自動車がもたらす歓び」について幾度も言及した。その情熱的な言葉の一部を抜粋する。

パフォーマンスと加速がもたらす高揚感について

私たちのGSEモデル、例えばモッカGSEは、誰もが胸を高鳴らせるようなパフォーマンスを備えている。0-100km/h加速5.8秒という性能や、電気自動車特有の素晴らしい加速は、運転する楽しさを直感的に伝えてくれるだろう。

「無音」という新しい価値観について

e-モビリティの大きな属性の一つに『無音』がある。これは従来のガソリン車の騒音とは異なる、新しい時代の魅力です。テクノロジーの進化とともに、この静かさの中で味わう刺激こそが、次世代のファンを惹きつけるのです。

レースを通じたスリルと興奮の提供について

電動スポーツカーに興味を持つ人々は、スリルやレース特有のバイブス(雰囲気)を求めています。フォーミュラEというプラットフォームを通じて、私たちは勝つために挑み、電気自動車がいかにエキサイティングであるかを証明していきます。

次世代が実感するEVの完成度について

私の18歳の娘は、自ら電動のモッカ・エレクトリックを選びました。彼女のように、一度電気自動車の魅力や完成度を体験した若い世代は、二度と内燃機関の車に戻ることはないでしょう。それほどまでに、EVには車をより良くする多くの魅力が詰まっています。

社長自らがメディアに対してこれほど情熱的に語る姿は印象的だった。ある記者から「娘さんには、他に選択肢がなかったのではないですか?(笑)」という少し意地悪な質問が飛ぶと、彼はこう一蹴した。

「ハイブリッドのモッカを選ぶこともできましたが、彼女は自らの意志で電動モデルを選んだのです。私たちは常にお客様に選択を委ねています。彼女が今後、ICE車を運転する機会があると思いますか? いいえ、あり得ません。『ところでガソリン車のラインナップはどこですか?』などと尋ねるお客様は、もういないのですから。」

念のために付け加えておくが、彼のブランドでは今もガソリン車を広く展開しているし、2月には新開発の2.2Lディーゼルエンジンを発売したばかりだ。これはオペルが「マルチエネルギー戦略」を堅持する一方で 、電動車が持つ根源的な楽しさを信じ抜き、それを誰よりも鮮烈な形でユーザーに届けるという「覚悟」の表れに他ならない。

今回のワークスチーム復活は、まさしくその決意が具現化したものだ。いち自動車ファンとして、新生オペルが描く未来から目を離すなんて選択肢はない。

(文=河合 優利・画像提供=Opel_2025,矢野 巧)

前の記事フォーミュラE、「モータースポーツの頂点に導く」Gen4の実走を初公開。単なる進化ではなく「ステップチェンジ」へ。
次の記事オペル20年ぶりのワークス復活。フォーミュラE『OPEL GSE 27FE』公開と、CEOが語る「電動化の確信」の真意

コメント(0

コメントを残す