
長いシーズンオフも後わずか。11月5日よりスペイン・マドリード近郊のハラマ・サーキットで、いよいよフォーミュラEのプレシーズンテストがスタートする。ここではその見所を紹介しよう。

バレンシアでの大災害を受け、フォーミュラEはFIA、地元当局、元々の開催予定地であったリカルド・トルモ・サーキットと協議の上、プレシーズンテストの開催地を急遽変更。1日半遅れのスケジュールに変更した上で、スペイン・マドリード近郊のハラマ・サーキットにてプレシーズンテストを行う。
フォーミュラEのチャンピオンシップ責任者であり、共同創設者であるアルベルト・ロンゴ氏は次のように語った。「マドリードでプレシーズンテストを開始できることに非常に感謝しています。これは、サーキット・デ・ハラマ・チームの献身的な努力によって可能になりました。トラックに出る準備をする間、私たちの思いは、私たちにとってとても身近な場所であるバレンシアのコミュニティとともにあります。」
「今シーズンは、GEN3 Evo を発表し、その驚異的な加速速度を初めて披露する重要な節目となります。さらに、FIA チャンピオンシップ初となる、女性テスト開催と歴史を作ったことを誇りに思います。これは、モータースポーツにおける多様性と包括性に対する、フォーミュラEの取り組みを反映しています。」
「来月サンパウロで始まる新シーズンに向けて準備を進めており、楽しみなことがたくさんあります。フォーミュラEシーズン11、Vamos!」
テストスケジュール
11月5日火曜日:
- セッション 1: 現地時間 14:00〜17:00 (日本時間 22:00〜25:00)
11月6日水曜日:
- セッション 2: 現地時間 9:00〜12:00(日本時間 17:00〜20:00)
- セッション 3: 現地時間 14:00〜17:00 (日本時間 22:00〜25:00)
11月7日木曜日:
- セッション 4: 現地時間 9:00〜12:00 (日本時間17:00〜20:00)
- セッション 5: 現地時間 14:00〜17:00 (日本時間 22:00〜25:00)
11月8日金曜日:
- セッション 6: 現地時間 9:00〜12:00 (日本時間 17:00〜20:00)
- 女子テスト : 現地時間 14:00〜17:00 (日本時間 22:00〜25:00)
初のハラマ・サーキットでの開催。

ハラマ・サーキットは、過去にF1やWTCRを開催した事もあるサーキットであり、現在はFIA ヨーロピアン・トラック・レーシング・チャンピオンシップや国内カテゴリーであるTCRスペイン、スペインF4を開催していることで知られている。

バレンシアから急遽開催地変更となった形であり、基本的にはハラマ・サーキットそのままのレイアウトを使用する予定である。唯一の変更点として、ホームストレートのピット入り口手前にシケインが設けられる。
バレンシアでは、チームのデータが豊富であること、また最終コーナーなどがメキシコE-Prixなど一部ラウンドのコーナーと似ていた事など、チームにとって参考となる箇所がある程度あったと言われている。しかしハラマ・サーキットは高低差など、比較的フォーミュラEのサーキットとキャラクターが違うと言われている。テスト期間も少なかった事で、各チームはある程度妥協されたテストとなるだろう。
また例年の流れを見る限り、このテストの結果が100%今シーズンを占うものでは無い事にも留意していただきたい。
模擬レースの開催

フォーミュラEのテストでは例年模擬レースが開催されており、今年も例外では無い。シーズン11では、セッション5の最初の時間を使用して行われる。今回の目玉はなんと言っても「アタックチャージ」のテストが行われる事であろう。
チームはバッテリー残量が60%〜40%の間に34秒間のピットストップが義務付けられ、そこで600kWの急速充電を実施。通常の使用可能エネルギー量10%に相当する3.85kWhを充電した後、アクティベーションゾーンを通過したアタックモードの使用が可能になる。アタックモードの合計使用時間は例年と同じ8分間で、それを2-6、4-4、6-2と割り振った上で2回使用する。
後述するが、スタート時とアタックモード時には「4WD状態での走行」が許可される。
周回数は24周で行われ、トップのマシンが24周走行後、チェッカーフラッグからの赤旗が振られる。その後、通常のテストセッションが行われる予定だ。
Gen3 Evo時代が到来

今回のプレシーズンテストは、パフォーマンス、持続可能性、効率が融合した。GEN3 Evoが初めて公の場で全車揃う、待望のデビューセッションとなる。これによりチャンピオンシップの新しい時代の幕開けとなるであろう。
この画期的なマシンは、0-100km/h加速が僅か1.86秒であり、これはFIA選手権でのシングル シーターの中で最も加速が速いことに加え、加速性能において現在の F1 マシンを 30%も上回っているという。

GEN3 Evo の概要:
- 0-100km/h加速が1.86秒(0-60mphは1.82秒)であり、現在のF1マシンより30%速い。
- 空力性能と耐久性が向上した新しい強化ボディキット
- 予選、レーススタート、アタックモード時に許可される4WD機能。
- グリップが大幅に向上した、新しいハンコックタイヤ。
- タイヤの再利用可能な材料の割合が26%から35%に増加
史上初めて、レースウィークの特定のフェーズにおいて4WDが利用可能になり、ドライバーは自分でその配分も調整出来ることになる。
そしてこのGen3 Evoでは、パワートレインの刷新が可能になる。
フォーミュラEでは、パワートレイン完成後ハードウェアに関しては2年間の”ホモロゲーション登録”がされ、ソフトウェア以外の開発は凍結となる。シーズン9からシーズン10にかけてのホモロゲーション期間が終わったため、このシーズン11では各メーカー全く新しいパワートレインを投入できるのだ。
実際、日産はギアボックスを完全新設計したと発言しており、勢力図の変化は確実だろう。
メーカーによってもアプローチは様々で、昨シーズンの実績があるポルシェは正統派進化にとどまっており、 その分シーズン13からのGen4用パワートレイン開発に力を入れているという。
FIA世界選手権で史上初めてとなる、女性限定テスト

今回のプレシーズンテストでは画期的なイベントが予定されている。FIA 選手権で初の試みとなる、女性のみによるテストセッションだ。
なお2018年のシーズン5開幕戦後に行われたディルイーヤでのインシーズンテストにおいても女性の起用が推奨されたが、この時は男性のレギュラードライバーと同時走行であった。
11月8日金曜日の午後に予定されているこのセッションでは、選ばれた女性ドライバーがGEN3 Evoを体験することになる。
選手権に参加する各チームは、半日のセッションに少なくとも 1 人の女性ドライバーを出場させる義務がある。またチームは 2 人のドライバーを起用することが”推奨”されており、全員が現行の車両に乗ることになる。なお日本の小山美姫もこのテストに参加する予定になっており、今後のフォーミュラEキャリアへ少しでも繋がるか注目される。フルラインナップは以下の通りだ。
ジャガー | ジェイミー・チャドウィック | リル・ワドゥー |
ポルシェ | マルタ・ガルシア | ガブリエラ・ジルコバ |
DSペンスキー | ジェシカ・エドガー | ベイスク・フィッセール |
日産 | アビー・プリング | |
アンドレッティ | クロエ・チェンバース | ネレア・マルティ |
Envision | アリス・パウエル | アリシャ・パルモウスキー |
マクラーレン | エラ・ロイド | ビアンカ・ブスタマンテ |
マセラティMSG | タチアナ・カルデロン | キャリー・シュライナー |
ローラ・ヤマハABT | 小山美姫 | |
マヒンドラ | レナ・ビューラー | |
Kiro Race Co. | シモーナ・デ・シルベストロ |
なお日産から参加予定であったソフィア・フローシュは、テストの開催地変更でスケジュールが後ろ倒しになったことで、予定が合わなくなり出走取りやめとなった。
ドライバーラインナップの大幅変更

シーズン11のストーブリーグはいつにも増して大荒れとなった。
マキシミリアン・ギュンターは、マセラティMSGレーシングを離れ、DSペンスキーに加入。フォーミュラEで2度のチャンピオンに輝いたジャン=エリック・ベルニュと組む事になった。両チームともステランティスのパワートレインを使用しているが、ギュンターにとっては”ドラゴン・ペンスキー”時代にフォーミュラEデビューを果たしたチームへの”復帰”となり、新たな章の幕開けとなる事間違いない。一方、ストフェル・バンドーンはDSペンスキーを離れ、マセラティMSGレーシングに加入し、NEOMマクラーレンから移籍したジェイク・ヒューズとチームを組み、マセラティはラインナップを一新した形だ。そのNEOMマクラーレンはサム・バードが残留、相方にはシーズン10にてスポット参戦したテイラー・バーナードが晴れてレギュラーデビューとなった。
日産はサッシャ・フェネストラズが離脱し、アンドレッティからノーマン・ナトーが”復帰”。オリバー・ローランドと組む他、ローランドはシーズン11より23号車をドライブする。
そしてアンドレッティにはポルシェ契約ドライバーとなったニコ・ミュラーがABTから移籍。ABT改めローラ・ヤマハABTはディグラッシが継続の他、F2で宮田のチームメイトであるゼイン・マローニをデビューさせる。
一部のチームは安定性を優先し、昨シーズンのラインナップを維持した。エンビジョン・レーシングはロビン・フラインスとセバスチャン・ブエミで継続。タグ・ホイヤー・ポルシェは昨シーズンのチャンピオンであるパスカル・ヴェアラインとチームメイトのアントニオ・フェリックス・ダ・コスタのコンビで継続だ。マヒンドラ・レーシングもエドアルド・モルタラとニック・デ・フリースで継続、ジャガーTCSレーシングもミッチ・エバンスとニック・キャシディで継続だ。
なおERTフォーミュラEチーム改めKiro Race Co.はドライバーをまだ確定させていない。今回のテストではほぼ継続が確定と言われているダン・ティクタムと、オーディションとしてポルシェのリザーブであるデビッド・ベックマンが乗る予定だ。
プレシーズンテストのフルラインナップは以下の通りだ。
ジャガー | ミッチ・エバンス | ニック・キャシディ |
ポルシェ | アントニオ・フェリックス・ダ・コスタ | パスカル・ヴェアライン |
DSペンスキー | マキシミリアン・ギュンター | ジャン=エリック・ベルニュ |
日産 | オリバー・ローランド | ノーマン・ナトー |
アンドレッティ | ジェイク・デニス | ニコ・ミュラー |
Envision | ロビン・フラインス | セバスチャン・ブエミ |
マクラーレン | サム・バード | テイラー・バーナード |
マセラティMSG | ストフェル・バンドーン | ジェイク・ヒューズ |
ローラ・ヤマハABT | ルーカス・ディ・グラッシ | ゼイン・マローニ |
マヒンドラ | ニック・デ・フリース | エドアルド・モルタラ |
Kiro Race Co. | ダン・ティクタム | デビッド・ベックマン |
新しいパートナーシップに、新しいチーム。

シーズン11では、チーム面でもいくつかの変更があった。
ABTは有名なローラ・カーズと提携。そのローラはヤマハと複数年にわたる技術協力契約を締結。ローラ・ヤマハがABTへパワートレインを供給する事になり、チーム名も「ローラ・ヤマハABT」へと変更した。この目を引く青と黄色の配色が特徴のこのチームは、ベテランドライバーのルーカス・ディ・グラッシと新人のゼイン・マローニを起用し今シーズンを戦う。
もう一つの注目すべき変化は、ロサンゼルスを拠点とする投資会社フォレスト ロード カンパニーが ERTフォーミュラ E チームの 100% の所有権を取得。Kiro Race Co.(キロ・レース・カンパニー)へと名称を変更した。今シーズンからKiroは大胆な黒と明るい緑のカラーリングを使用する他、ポルシェとの技術提携契約を締結。この提携により、チームは昨シーズンまで使用していた型落ちのポルシェパワートレインを使用する。このパワートレインはシーズン10でのドライバーズタイトル獲得に貢献したパワートレインでもあり、チャンピオンシップでの競争力が高まる事になるだろう。
フォーミュラEのプレシーズンテストがライブ配信される予定はない。しかし、フォーミュラEの公式サイト( https://fiaformulae.com/en/race-centre )にてライブタイミングの他、ライブアップデートを見る事が出来る。ライブタイミングでは、お気に入りのドライバーを追跡する機能なども存在し、各自これで開幕前からフォーミュラEを楽しんでほしい。
コメント(0)
コメントを残す